たいせつなことは、今日こそ、菜っぱを、一本もむだにしないで、おしたしに作ることだ。解ったのか。(私はうなずいた)僕はぜひ僕の処方箋のもとに栽培した菜っぱの味を味ってみる必要があるんだ。これは僕の肥料処方箋が人間の味覚にどうひびくかの実験だから、菜っぱを捨てられてはじつに困る。ごまその他の調味料は最小限の量を用い、菜っぱ本来の味を生かすおしたしを作ってみろ。ああ、僕はいま、たいせつな講義に遅刻しかかっている。

「僕は、なんだか、あれなんだ、たとえば、荷物をうんと積んだ引越し車を挽いてやりたい心理状態なんだ。何しろ今日は昨夜の翌日で、昨日は二助の蘚が恋をはじめたり、花粉をつけたり、ひいては僕が花粉をどっさり吸いながら女の子の頭を刈ってやったり、それから......ああ、女の子は昨夜がどんな日であったかを覚えていないのか。女の子というものはそんな翌日にただ回避性分裂に陥っているものなのか。僕は二助のノオトを持っているのに、女の子のほうでは二人で蘚の論文を読もうとはしないでかえって雑巾バケツを持ちだして来るじゃないか。だから僕は大根畠の試験管を叩きこわしてやりたい心理になるんだ。僕はぼろピアノを叩き割っても足りないくらいだ。僕は結局あれなんだ、何かを掴みつぶしてやりたいんだ。だから僕は、掴みつぶす代わりとして引越し車の重たいやつを挽くんだ。」


ISBN:4480102205
小野塚カホリというよりは、大島弓子